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3.


だが、彼はそれでも救うことを選んだ。

一度躊躇いからふっきれた足は、歩くだけから小走りになった。裏路地から激しく怒鳴る声と嫌な笑い声と小さな呻きが聞こえくる。近付くにつれて徐々にその音は鮮明になっていく。

「返しますから、…お借りした分は、必ず、…お返ししますから。…だから、もう少しだけ…」

途切れ途切れのか弱い声が震える。

そこにイチルが迷わずに割り込んだ。

「お前ら何をしている!」

殺気とまではいかないが、相当な威圧感が込められた低い声に男達は表情を硬めて後ずさった。だが、不安げに走らせた視線は互いの人数を確認するとまたニヤニヤと笑う。

だが、招かざれる乱入者に最初に声をかけたのは男達ではなく、地面に転がらされていた彼だった。

「お、お兄さん、…僕と遊んでいきませんか」

不安と恐怖でガタガタ震える声で、手も同じくらい震えているのに、それでも彼はイチルのフードの裾をしっかりと掴んでいる。

(遠くて見るよりもずっと綺麗な人だなぁ…)

腰まである淡いクリーム色の長い髪はひどく乾いていたが、少し手入れをするだけですぐに艶を取り戻すだろう。澄みきったアメジストの目は猫目気味で、今は涙を浮かべながら垂れている。

肌は雪のようにきめ細かくて白いのに、切り傷や青や紫に変色した痣が多い。花びらのように控えめな唇も、端が切れて血が滲んでいた。何より目立つのが、痛々しく腫れた頬。

落ち着いたカルナダ様とも、男らしいレイロさんとも、冷たそうなイチルとも違う綺麗さ。自分が守ってやらなければ儚く消えそうで、どこか危うい。まさに春の雪のようだった。

傷がなければ誰もが振り返る絶世の美人だっただろう彼は、頼りなく薄い肩を震わせながら片手で上着のボタンを外していく。

「ひどくしても大丈夫です。…安く、しますから。少しのお金でいいので…!」

薄い胸板に、顔よりもひどい打ち傷があった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。