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2.


そして、イチルは城を出てからマントについているフードを被りっぱなしだ。金髪は珍しくないし、青の目も薄いものならそこらじゅうで見かけるが、海の底のような深淵の青はセットレイア王家にしか見られないらしい。

面倒事を避けたいのはよく分かるが、顔を明らかにしたとしても、小鳥を肩に乗せながら大口を開けて焼き鳥にかぶりつく旅人が実は王子だと一体誰が思うんだろう。

俺だってイチルの順応ぶりに、いや、野生ぶりに王子だということを疑ったんだ。

「…なぁ、今失礼なこと考えてねぇか?」

『そんなこと、あるわけ』

ない、と答えようとした瞬間だった。

ドン、と強い音がした。そちらを見れば、裏路地、ちょうど表から差し込む光がなくなって暗くて見えにくい場所に、若い男が倒れていた。

その人はここからでも分かるほど美人だったが、身にしている衣服は目も当てられないほどボロボロで、薄汚れていた。

彼は自分で倒れたのではなく、他の誰かに張り倒されたんだろう。頬を押さえて肩を震わせる彼の隣で、ニヤニヤといやらしく笑う男が三人いた。男達は彼の髪を無遠慮に掴み、痛みで顰められた端整な顔を無理に上げさせる。

イチルがピクッと肩を震わせる。足が一歩だけそちらに踏み出したが、踏みとどまった。

イチルは迷っているんだろう。

この国は貧困に喘いでいるわけじゃない。むしろ豊かさを保っている大国だ。だが、そうだとしても人の心の闇は常に存在する。

どれだけ旅に順応しようと、この王子様はやはり箱入りのいい育ちをしていて、旅でそういう場面を見る度に心を痛めていたのを知っている。全ては救えない、と彼が理解していたことも。

確かにそうだ。今、ここで一人を救ったとして、他の人は?全員を救う力もないのに、偶然見たからって彼だけ助けるのか?

それはあまりにも理不尽で、独善的だ。

イチルには痛いほど分かっていたんだろう。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。