「お前、最近肥えたか?前に比べてポケットが重くなってんだが、」
『肥えたって言うのやめてくれないかな。せめて太った、とか。…俺もそう思う。だってポケット狭いもん。尾羽の置き場がないの』
「しかも、アホ毛立ってるし」
『いや、これは寝癖で…』
「いや、もう三日は立ってる」
旅を始めて二週間。急がなくとも毎日馬で距離を移動すれば、それなりの距離を稼ぐことが出来た。
きちんと路銀を持っていたが、贅沢できる筈もなくて毎日二人で安宿に泊まり続けた。城のふかふかのベッドに慣れきったイチルが朝肩を回したり、背筋を伸ばしたりするのをよく見かける。
それでも町があるうちはまだいい。町を出て森や野原になれば、お金があっても宿屋がないから野宿せざるを得なくなるだろう。
旅の中で、魔王のことを聞いた。
この世界には聖獣とは別に、魔獣がいる。魔獣は聖獣と違って理性も持たず、残忍で獰猛な本性をしていて人間を食い殺す。
千年と少し前、魔獣を統べる魔王がいた。魔王も同じく残忍だったため、東の国の勇者が倒した。だが、魂までは消滅させることは出来ず、いずれ魔王は復活するらしい。
いつ復活するかは分からない。だが、魔王の復活には前兆がある。魔獣が現れることだ。
魔王が倒されて以来、千年以上も人の前に姿を現さなかった、いや、そもそもその間存在していたかも分からないが。その魔獣が各地で現れ始めたのだ。そして、回数も個体も増えている。
魔王の復活は、近いんだ。
魔王が倒された地に赴き、千年もの時によって緩んだ勇者の封印を強める。それで封印を食い止められる。だから、勇者と魔王の最終決戦の地、西の最果てに向かっている。
そして、今、西の町、ノグ・ローレンにいる。
この町は王都のすぐ西に位置するにも関わらず、大きな監獄があるために治安が少し悪い。釈放された囚人達がこの町に留まる場合があり、さらに看守や民間人が雇った護衛の筋骨隆々とした見た目がそのイメージを強める。
盗みなどの軽犯罪が横行しているが、カルナダ様にまで報告するまでの事態ではなく、さらに町の役人に抑えにくいからタチが悪い。
[ 56/656 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。