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8.


『同胞よ、鎮まれ』

ドラゴンが広げていた翼をたたむ。

その向こうで獅子なのに情けない表情をした聖獣が、腰が抜けたように下半身だけくたりとその場にへたり込んだ。血の気が失せたカルナダ様が、震える手で冷や汗を拭う。

『あれ、召喚の儀式は?』

『…もうそれどころじゃないよ』

改めて周囲を見回してみた。

爪痕が走り、思いっきり抉れた床。壁は壁紙どころかレンガまで見えて、ところどころ風穴が空いている。ガラスを失ったステンドグラスの枠組みは歪んでいて、今にも落ちてきそうだ。制御石も三つのアイテムすら跡形も残っていない。

半笑いのドラゴン。ペタリと耳を伏せて怯える獅子。カルナダ様の顔色は紙のように白かった。開けた口から魂が飛び出たようなレイロさんに、隣のペガサスはたてがみが芸術的だ。

イチルはいまだにポカンとしていた。

とりあえず、俺は首を傾げておいた。だって、これは俺の仕業じゃないんだから。

『いやいや、今さら可愛げを装われても…。で、君達は諦めた方が賢明だと思うけど?』

その言葉は獅子とユニコーンに向けられていた。獅子はコクコクと頷いた後、すぐに雷となって消えた。その際に、イチルが残念そうな顔をしたのが気に入らない。

そして、蹄の音が静かに近付いてきた。

『それにしても、自分が光属性だったことを今日ほど感謝したことはなかったな』

音の主はユニコーンだ。

傷一つついておらず、そもそも毛並みすら乱れずに、一体だけ優雅に歩いて俺の前に来た。その表情はどこか残念そうだった。

『無理かもとは思っていたが、本当に無理だったか…。お会いできて光栄だ、か』

ゴホン、とドラゴンが咳払いをする。

『…可愛らしい小鳥殿』

『イチルとは契約しないの?』

その言葉が不機嫌だったのは仕方ない。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。