「ほう?」
ピクリ、と彼の片眉が吊り上がる。
体感温度が一気に下がった気がした。
俺は本当に慎重に物事を進める気でいたんだ。フェニックスを刺激しないように丁寧に事情を説明して、できるだけ互いに妥協できる道を探していくつもりだった。…彼を見るまでは。
だが、どうやら無理らしい。あの冷えきった深紅の瞳に妥協の二文字なんてなかった。
だったら、
「単刀直入に言うよ」
長ったらしい前置きなんて必要ない。
俺達がこの地に足を踏み入れた理由なんて、どうせとっくに察しているんだろう。そして、千年前フェンリルと戦ったように、今回も大人しく加護を取り消すつもりもないと思う。
武力衝突は避けられない。
だったら、腰を低くして出る必要はない。
「加護を消せ」
強く、殺気すら込めてフェニックスを睨み据えた。喉から出た声は自分が思っていたよりずっと低く掠れ、地面を這うように、ピリピリと緊張感を漂わせながら空気を震わせる。
威嚇ばかりに風を飛ばす。鎌のように鋭くなった風が彼の顔すれすれを横切ったが、彼は目を丸めた後またスッと冷たく目を細めた。
風を受けて炎が揺らめき、窓が鳴った。
この威嚇がどれほど彼に通用するだろうか。だが、少なくても彼に比べたら王としての経験が浅くても確かに武力を持ち、それを使うことも辞さないと伝えることができただろう。
「…なるほど」
落ち着いた声。
むしろ落ち着きすぎて不気味な声だった。絶対に負けないという勝算があるのか、それとも溢れる怒りが逆に声を落ち着かせるのか。
あるいはその両方か。
「風の王よ、ここまで来たそなたならば分かるだろう?俺の答えが否(いな)だと」
俺の雰囲気も冷えていく自覚があった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。