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10.


服装は真っ赤な軍服だった。

だが、彼が本来持つ赤の方が鮮やかだから、派手に見えなくてむしろよく似合っている。

赤によく映える金の鎖の装飾。腰まであるマントが風に靡く。黒い革の手袋と袖の間に見える素肌は意外と白い。胸元で何か反射して光ったが、この距離からではよく見えなかった。

きっちり着込んだ服装なのに暑苦しさを感じさせないのは、彼の眼差しのせいだろう。

冷えきった殺意の眼差しだった。

「"随分な歓迎"…?…ならば、そなたらは随分な挨拶をしてくれるなぁ?」

外見は若くみずみずしい青年なのに、その言葉遣いも声もかなり老成していた。

老人というほど嗄れた声ではなかったが、見た目に似合わない落ち着きすぎている声からは彼が生きてきた年月が容易くうかがえた。

「精霊達が騒いでいた。よからぬ者共が来たと」

「まぁ、あんたにとったら邪魔者だろうね」

「"あんた"。…ふむ、近頃の若い者は礼儀がなっていないと見える。新参の王よ、王だからといって自惚れるでないぞ」

炎が荒れる。

こちらを殺さんとするばかりの眼差しは絶対零度なのに、炎は空さえも焼こうとする。

正直に言う。ほんの少し怖い。勝てるかどうかと問われたら自信を持って頷けない。だが、傍にいるイチルの横顔が目に入った瞬間、そんな怯えた感情は瞬時に跡形もなく消え失せた。

イチルの命がかかっている。

それだけで心が恐ろしく凪いでいく。

「…と言われても、世界をこんな風にして、罪のない人や聖獣をたくさん死なせたあ、ん、た、なんか敬う気もないんだよね、俺」

思いっきりあんたの部分を強調した。

フェニックスの瞳がさらに冷えていく。だが、もう俺に恐怖なんて感情はなかった。

本当は穏やかに交渉するつもりだったのに、世界をこんな風にしてなお自分だけお高くとまっているフェニックスを見た途端、ぷち、と頭のどこかの神経が切れたのかもしれない。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。