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9.


風も炎が衝突した。

俺達の少し前、城壁を越えたほんの僅かなところで低く唸り声をあげる風と殺意を顕にした炎が爆音を上げて全力でぶつかりあった。

鼓膜を激しく揺らす音。一拍遅れて全てを巻き上げようとする爆風から仲間を護るべく、さらに風を叩き付けて相殺する。砂が城壁を叩く音はもはや砂だと思えないほどに激しかった。

炎を巻き上げた風は空へと霧散する。その一瞬、炎の赤で夕暮れになったように見えた。

交渉しなくてはと思っていたのに、

「随分な歓迎だよね」

つい声が低くなってしまう。

(…一筋縄ではいかないな、これは)

人の姿になる。小鳥の姿のまま相手をしようなんて絶対に無理だ。魔獣とは格が違う。

少しして砂埃が晴れ、上を睨み上げれば彼がした。純白に輝く塔の上で静かにこちらを見下ろしている一人の若い男。白亜の城にも燃え盛る炎にも呑まれない絶対的な存在感。

それはまさしく王者の風格だった。

「…フェニックス」

どこまでも鮮やかな、燃え盛る炎と同じ色の髪。情熱的とも攻撃的とも取れる赤色。それは眼差しの強さを強調して凛々しかった。

瞳も同じ色だったが、それは魔獣の赤と違って禍々しさが存在していない。暗さなんて微塵もない射抜くような強く、鋭い眼差し。気に入らないものをことごとく燃やし尽くす赤。

男らしく整った顔立ちだったが、そこに好意的な感情はない。静けさを通り越して苛立ちさえ滲んでいて、さらに耳にある冷えた銀色のピアスが彼を更に攻撃的に見せていく。

だが、耳の横、首のところの髪に違和感がある。

(ん?)

そこの髪だけ僅かに色褪せ、鮮やかな赤色ではなく燃えカスのような白っぽい灰色だった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。