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5.


先を争うように水が動いた。

何度も何度も器の端にぶつかったそれはついに乗り越えて、明確な意思を持ちながら中央にいたイチルに向かって進んでいく。

尾を引くようにたどった跡を凍らせながらそれは水から氷になり、金魚に似た複数の聖獣が姿を表した。ひらひらと氷の胸ビレと尾ビレを揺らしながら、イチルに近付く。

だが、それは隣から伸びた火に霧散した。

蝋燭に灯されていた火はいつの間にか蝋燭を呑み込み、天井にすら届きそうな紅蓮の炎になっている。その炎は次第に巨大なトカゲへと姿を変える。

トカゲが尾を揺らした時、蝋燭を挟んでいた二つの制御石が光り始めた。だが、一拍後に全ての制御石が光る事態になった。

空気を震わせる雄々しい獅子の咆哮。

艶のある金色のたてがみを持つ獅子は、体躯に見合った堂々とした鷲の翼にバチバチと雷を纏いながら、力強い四肢で地面を蹴る。何故かその翼を動かすことはなかった。

そして、甲高い馬の嘶(いなな)き。

イチルに降り注ぐ夜明けの光は神々しさをそのままに、純白の馬へと姿を変える。ペガサスとよく似ていたが、淡い光を纏っていたその馬に風を切る翼はなかった。

代わりに目を奪うのは額から伸びた一本の角。緩やかにねじれているそれは、光を反射して煌めく。

その純白の馬は蹄の音を高らかに響かせ、光の粒を辺りに散らばせながらイチルの周りをぐるぐると回る。なのに、イチルをじっと見据えていても近付く気配はなかった。

既に全ての制御石が光っていた。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。