その時、輝く結晶が空気中に満ちる。
よく見ればそれは雪と同じく正六角形をした小さな氷で、すぐに溶けていったかと思うと体感温度が下がって涼しく、呼吸が楽になった。
ホーリエの方を見れば、ぱちり、とアメジストの目がどうだと言わんばかりにウィンクした。
『ありがと』
本当に助かった。
勿論、これは魔法による作用だから魔力を消耗する。つまり、この魔法が長引けば長引くほどホーリエに負荷がかかってしまう。
(できるだけ早くフェニックスに会おう)
風の精霊を呼び寄せる。空気があるところであればどこにでも風の精霊がいるが、ここにいる彼らもこの暑さに参っているようだ。
だが、精霊達なら必ず知っている。
(…炎の王はどこにいるの?)
西に向かって風が吹いた。
(まだ西に行くの?)
また西への追い風。肯定。
(ありがとう。助かったよ)
イチルのポケットから出た。
涼しくなったといっても風には相変わらず砂を含んでいて、それが羽に混じって気持ち悪い。砂を振るい落とすように、もしくは俺自身を振り立たせるように一度体を震わせた。
『西だよ、もう少し先にいる』
結論から言えば、丘の向こうだった。
山とさえ呼べない小さな丘を乗り越えると、そこには白亜の美しい城があった。
この地は千年前からこうなっているのだから、きっとこの城も千年前のものだろうに輝く白い壁に一点の汚れもなく、また城壁も高い塔も崩れずに残っている立派なものだった。
だが、人影がないにしても、その城は通常の城とは明らかに違っているところがある。
『燃えている…』
真っ赤な炎に包まれているのだ。
空まで焦がす勢いの炎に包まれ、紅色と純白が強烈なコントラストを生み出していたが、城自体が焦げる気配はない。むしろその炎は侵入者から城を守ろうとしているようだった。
メラメラ、としなやかな炎の舌が伸びて、ここからでも熱気を感じることができる。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。