そこには異様な境界線が存在していた。
まるで故意に線を引かれたように、いや、実際に人為的に引かれた魔力の線ははっきりと東西を二つの世界に分けてしまっていた。
左は季節相応の真冬。空は白く凍え、草に張った霜は溶ける気配を見せない。冬であるから木に葉はないものの確かに生命が存在し、自然の理に沿ったあるべき姿の景色だった。
だが、たった一歩先、その線の向こうにある西側の世界は全く違った姿をしていた。
真夏の晴れ渡った空。どこまでも透き通った青と言えば聞こえはいいが、雲一つなく乾いていて、見るだけでも陽射しが強いと分かる。本来、その大空を飛ぶべき猛禽は今にも崩れそうな骨となり、俺達の数歩前に無残に転がっていた。
命の一つも、水の一滴もない砂の世界。あまりの暑さに遠くの景色が揺らいで見える。
今は砂漠と成り果てたその地だったが、かつての豊穣の土地は僅かに名残りを残していた。完全に砂となったわけでなく、まだかろうじて硬い地面が見えるのだ。乾ききった大地が。
千年前の強国の変わり果てた末路。
この線が生死を分ける線に見えた。
「嘘、だろ」
誰かが呟く。
それでも、後ろに引く者はいなかった。
そして、俺達は一歩踏み出した。
『っ、』
不思議な体験だった。
今まで寒さに震え、粟立った肌の一瞬で汗ばむ。だが、その汗はまた一瞬で蒸発し、じめじめとした感じさえ残さずに焼き付くような刺すような乾いた陽射しが容赦なく降り注ぐ。
もはや陽射しが痛かった。
朝だなんて関係なく、いや、夜が来ないこの地に時間なんてなく陽射しが全てを焼く。
あまりにも熱気をはらんだ空気に呼吸が苦しくなり、口を開けば喉が痛い。気道が悲鳴を挙げる。陽射しを避けて俯いているのに、地面からの反射にさえ目を開けていられそうにない。
ここにいてはダメだ。焼かれて死ぬ。
本能が警鐘を鳴らしていて、頭に響く。
(こりゃ闇の精霊も逃げるわけだよ)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。