『どんな心境の変化があったかは知らないんだけどさ、これだけは聞かせてよ』
白馬の頭に飛び乗った。
白馬は擽ったそうに耳を動かしたが、特に嫌がる様子はなくて俺はイチルを見上げた。
瞳は相変わらず血の色だったけど、そこには昨夜見当たらなかった光があって、剣に似た鋭さと凛と揺らがない強い意志があった。
『お前は俺と一緒に戦ってくれるの?』
ふっ、とイチルが目を細めた。
朝日に照らされた彼は息を呑むほど綺麗だ。僅かに風に靡く金の髪も、ルビーのような高貴な瞳も、それを縁取る長い睫毛も、不敵な笑みも全てがどうしようもなく綺麗で頼もしい。
「あぁ、…お前と共に戦おう」
最期の時まで。
後半は音になっていない。だが、そう動いた唇を俺は決して見逃さなかった。
だが、それに気付かなかったふりをして俺も微笑む。小鳥の表情なんて誰にも分からないだろうに、イチルには伝わっている気がした。
『そうこなくっちゃ』
イチルが俺の頭を優しく撫でてくれる。
それが気持ちよくて目を細めればイチルが笑う。そして、頭から離れていった指がポケットを開いて、真っ赤な目線が中に入れと言った。
躊躇いもなく俺はポケットの中に飛び込んで、頭だけを外に出した。ポケットの中は温かい。
あぁ、とても懐かしい。
こうしたのはいつぶりだろう。
伝わってくるイチルの温度も、ここから見る景色も、見上げる横顔も、全身を包み込む安心感も何も、何も変わっていないんだ。そして、俺はこの穏やかな時間が変わってほしくもない。
『じゃあ、行こっか』
大事なものを守る戦いに。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。