そして、一睡もできずに夜明けを迎えた。
空が白み、夜の紺色の闇が少しずつ西へと引いていく。凍えそうな一夜を経て草に宿った霜が朝日に照らされてキラキラと輝いていた。
俺は宿に戻った。一睡もしていないのに体は軽くて、既に戦闘の準備をしているようだ。
(できれば戦いたくないな)
話し合いで解決したい。
それが一番の解決方法なのだが、フェンリルとも戦ったフェニックスに通用するのだろうか。
皆は既に準備を終えて、宿の外で俺を待っていた。ユニコーンに乗り、肩にドラゴンを乗せたカルナダ様。ドラゴンは俺に気が付くと少し険しい眼差しを投げかけてきた。
大剣を背負い、黒い馬に乗ったオーツェルド。栗毛の馬の首を撫でているホーリィとその隣で緊張した面持ちで浮遊しているマーメイド。
挨拶をすれば皆笑顔で返してくれた。
そして、イチルの後ろ姿。
正直、見慣れた後ろ姿を見付けて心底ほっとした。自分が何に怯えていたかは分からないが、押し寄せる安堵感に泣きそうになった。
『イチル、』
彼が振り向いて、
「…タク、」
少し気不味そうにした。
白馬に乗った彼は眩しいほどキラキラしていて、憎たらしいほど王子様らしくて、だが、その目だけは赤いまま元に戻らなかった。
ふと彼の腰を見れば剣が差されていて、いつもはセットレイアの家紋に布を巻き付けて隠しているのに、今その布はなかった。輝きが少し鈍い王家の家紋が控えめに煌めいていた。
俺の視線に気付いたイチルが苦笑いをした。
「俺も向かい合わねぇとって思ったんだ」
『へぇ』
「俺らしくねぇ、って思ったか?」
『いや、』
いつだってイチルには勇気があった。
『すごくお前らしいよ』
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。