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灼熱の砂漠


結局、あの後は宿に戻らなかった。

お互いに思考をまとめる時間が必要だったし、ついカッとなった俺も悪かったと思う。

ふわふわの羽毛は真冬の寒さから身を守るのに充分だったが、心が凍えそうだ。決戦の前の夜はイチルに寄り添って眠ると決めていたのに、これが最後の夜になるかもしれないのに。

色々考えた。

今までのこと、これからのこと。

イチルは自分の体の変化に気が付いていた。だが、助けを求めてくることはなかった。

俺に傷ついてほしくない、と言っていたのは確かに理由の一つだろう。だが、俺はどう考えてもそれが逃げているように思えたんだ。

王城から出た時と同じように。どうせ居場所がない、出来損ないだから仕方がない、いなくなった方がマシだ、って声にならない悲痛な悲鳴が今にも耳に聞こえてくるようだった。

運命に抗うために力をつけていった彼は、いざその運命の岐路に立つ時が来ると怯える。

それが悪いことだとは言わないし、彼を責められるほど俺も偉くない。俺も家から逃げ出そうとしたんだから。逃げ出して、この世界に来て、イチルに出会ってたくさん励まされた。

イチルに会わなかったらきっと誰かを愛することも、守りたいと思うこともなかった。

結局、どれだけ考えたところでイチルの諦めた態度の裏にどんな気持ちがあるのか分からない。完成に諦めて心が死んでいるのか、それとも僅かでも未来の光に期待をしているのか。

(…諦めるって死ぬってことでしょ?)

それは仕方がない。

命があるものはいずれ終わりを迎える。

だが、彼だけ散々俺を助けて、俺が借りを返せないままあっさりと死ぬのは許さない。

(いいよ、死なせてあげるよ。…生きるべき時間をたっぷりと生きて、幸せになった後でね)

それまでは生きてもらうんだから。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。