イチルは夜が明けないうちにベッドを出た。
召喚の儀式にも俺を連れていかないつもりだったらしいが、ベッドの揺れで起きた俺は緊張で目が冴えて無我夢中でイチルの袖を啄めば、長くて重たい溜め息の後、ポケットに入れられた。
俺がもう飛べることくらいイチルにも分かっていたのに、癖のようにポケットに放り込む。俺も今は甘えたかった。
部屋を出る。たぶん、カルナダ様とレイロさんが待つ召喚の間に向かっているんだろう。
(本当に行っちゃうんだ…)
なら、俺はどうするのか。
いまだに観光気分でいるこの見慣れない世界で、鳥の姿のまま旅に出る覚悟はあるのか。イチルに迷惑をかけないと言えるのか。
城に残ってカルナダ様と過ごすのか。
城に残った方が楽だ。カルナダ様やドラゴン、レイロさん、ペガサスと言葉が通じるし、きちんとした寝床にも食事にもありつける。
俺がここに残ると決めればイチルは反対しないが、いや、そもそもそのつもりで小屋を作ってくれたが、そうしたらこの不器用な王子様が平気なふりをして寂しがる気がした。
きっと顔には出さないんだろう。
それで、一人になったら溜め息を吐くんだ。
(イチルは俺の面倒を見てくれた)
寝床も、食事も、飛べなかった俺を心配して医者を呼んできたこともあったし、俺のわがままで騎士の鍛錬を見に行ったこともあった。
だから、俺は、
(一緒に行くよ、イチル)
何もできないかもしれないけど、一緒に旅に出よう。二人なら寂しくないから。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。