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6.


イチルは部屋に戻るとすぐに旅支度を始めた。

俺をテーブルの上に置くと、大きなクローゼットを開けた。その大きさにしては、中のものが少なくて寂しい。少ないそれらからさらにたった数着の服を取り出した。

服と、靴と、コートと、薄い毛布と、数冊の本、そして、愛用の剣。王家の紋章が見えないように幾重にも布を巻いて、それから他にも鞄に必要最低限のものを詰め込んだ。

人一人が旅に出るとは思えないほど少ない。

そして、どこからか木箱を取り出した。俺が寝床に使っている木箱と違って屋根があるそれに、真新しい綿を思いっきり詰めこむ。

それを中庭の一番太い木の一番しっかりしている枝の根元に固定して、隣の枝に穀物が入っている袋を三つも置いていく。

「兄様とは話せるんだろ?」

肩の上にいた俺に、そう問いかけた。言葉は通じないから、黙って頷いた。

「困った時は兄様に頼れ。あの人ならなんとかしてくれんだろ」

魔王とはどういうことか。

俺を置いて、一人で行ってしまう気か。

聞きたくても、イチルに通じる言葉がなかった。何も言わないまま、何も言えないまま、二人でまた部屋に戻っては時間が過ぎていく。

日が沈んで、月が出て傾いていく。その日はいつも使っている寝床を使わなかった。代わりにベッドのイチルの首元で眠った。

と言ってもなかなか眠れなかった。だが、俺が寝ていると思い込んだイチルが何度も優しく俺を撫でるから、何も出来ずに眠ったふりをした。

そして、いつの間にか俺は本当に眠っていた。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。