※カルナダside
『カルナダ、』
その声に視線を上げる。
視線より僅か高い枝にいたドラゴンが、ゆっくりと首をもたげた。だが、その視線は私の方に向けられていなくて、イチルとあの小鳥が去っていった方をじっと眺めていた。
『そう心配しなくてもいいさ。君が思っているよりもあの子達はずっと強いんだから』
「強い?イチルには魔力すらないんだ!」
『人間でも魔力がないなんてありえないよ。自然の理(ことわり)から、そう決められている』
「…現にイチルには欠片すらもない」
『教えてあげよう、カルナダ。魔力がないのは二つの場合がある。一つは微量過ぎて使えない。もう一つは、…封印さ』
魔力の封印。
聞いたことはある。だが、それは大昔には既に受け継がれなくなった禁術の一つだ。魔力を封印するのは残酷すぎるし、何よりほとんどの場合、魔力の使いすぎによって術者が命を落とす。
今となっては実用するどころか、文献すら残っていない。誰も知らない魔法なんだ。
そもそも封印なんて大掛かりな魔法の発動を行える筈もない。大事に育てられてきたイチルに行う機会はなかったし、魔法陣が現れるから誰か気付くに違いない。
魔術師やレイロを初めとする騎士はもちろん、王族だって実力者が揃っているんだから。
「まさか、ありえない」
『そうとも言えない。その証拠に、ほら、魔力は魔力を呼ぶだろう?』
「…え?呼ぶ?何を?」
ドラゴンはその質問には答えてくれなかった。先程までイチルが去った方を見ていた雷色の大きな目は、瞳孔を鋭くさせて私を見据えていた。
『防御魔術のレベルを出来る限り高めてね。でも、君とレイロ以外の人間はいちゃいけない。明日は僕も出よう。…もしかしたら、君のSランクでは抑えられないかもしれない』
ぱちり、雷色の目が瞬いた。
『明日は荒れるだろうさ』
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。