「兄様!?」
固まっていたイチルがやっと反応した。
(…そう言えば、何も教えてなかった)
ドラゴンが来ることを言ってなかった。まぁ、カルナダ様も来るとは俺も知らなかったが。
「あぁ、イチル、元気そうで何よりだ。ところでお前の花嫁となる方はどこに…」
カルナダ様が何かを言いかけた。
だが、ドドドド、と宿の床を踏み抜く程の地響きが聞こえてきて、カルナダ様の言葉をかき消した。だから後半は聞き取れていない。
そして、誰もが地響きで動きを止めた時、バンッ、と蝶番が吹き飛ぶ勢いで扉が開けられた。実際、蹴り開けられたのかもしれない。
そこから現れたのは、
「虫か、虫が出たのか!?」
「え、何、今の音!?イチルが寝返り打った音だったりする!?寝相悪くても木に登ったりとか、これはさすがにダメだよ!」
『なりませんわ、風の王!ベッドの上で飛び跳ねるのは危険なのよ!小鳥の姿でならいくら飛び跳ねても大丈夫なのだけれど…』
愉快なパーティーの仲間達だ。
おそらくユニコーンが着地した一瞬の、ダンッ、という凄まじい音を聞きつけて駆け付けてくれたのは嬉しいが、とりあえず、
「皆勘違いすごいよね。違うからね?」
とは言ったものの、イチルと小鳥姿の俺が寝泊まりしていた一人部屋にぎゅうぎゅうと詰めかけてくるのはとまらない。今では馬一頭と六人とドラゴンでもう身動きが取れない。
「え、友達?イチル、友達ができたのかい?」
「俺をなんだと思っているのですか、兄様」
この騒ぎ、もう宿を追い出されそうである。
今にもオーナーの部屋の方から足音が聞こえそうな中、ついに俺のポケットから頭を出した純粋な瞳をした雛がトドメの一言を放った。
『かあさま、あのとおさまに似てる人だぁれ?』
カルナダ様が完全に凍った。
この雰囲気の中で、おじさまだよ、とはさすがに言えなくて、俺は黙ったまま指の腹でそっと雛をポケットの中に押し返した。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。