と思ったら、
「うっ、」
キリッとしていたカルナダ様は手で口元を押さえ、プルプルと小刻みに肩を震わせた。
「え、どうしたの?カルナダ様?」
『酔ったんじゃないのかい?ユニコーンの移動はかなり酔いやすいからね』
『急ぎだと仰っていたのでつい…』
「ん?」
聞けばユニコーンの能力らしい。
彼は聖獣の中でも特別な能力を持っており、現実世界と仮想世界を繋ぐことができる。現実世界とは今俺達の肉体と意識があるこの世界であり、仮想世界とはそこから切り離された、あるとは想像できるが、実際には行けない世界である。
例えば壁にかかった絵画、絵本の挿絵、夜に見た夢、景色を映した鏡や硝子、湖面や雨の日の水溜り、本や過去を記した日記。
それらの向こうには仮想世界が存在し、それらはその世界へと足を踏み入れる扉である。
通常なら入ることは不可能だが、ユニコーンだけは特別でそれらの扉を通して仮想世界と現実世界を行ったり来たりと移動できるのだ。
仮想世界はそれぞれが独立しているが、その中には他の仮想世界へと渡る扉も存在する。
そして、現実世界であるセットレイア王国の城から出発し、仮想世界を次々に渡りまくって、俺達のところに来た。仮想世界から現実世界に渡ってくる扉があの夜の森の絵画だったんだ。
現実世界を爆走するよりも早いらしい。
「う、気持ち悪…、っ、鍋の中に飛び…、」
『僕は楽しかったさ!ゴシック小説の女の霊に追いかけられたのが特に!あの童話の世界も、ユニコーンったらお菓子の家の窓めがけて爆走だよ。見たかい、あの魔女の顔!はっはっは!』
『安全運転を目指したのだが…、崖を垂直に駆け下りたのがまずかったのか。…それとも、アーサー王の着替え室の鏡から飛び出したのが…、いや、でも、あれは勝手に着替えていたあの人が悪いわけで、別に私は下着を見ようなどとは…』
『誰だい?さっむいギャグが溢れてる夢を見ていたのは!布団が吹っ飛んでいたし、無視してくる虫って寒ッ!ッはは、ひは!!』
「…カルナダ様、大変だったね」
ていうか、その夢、だいたい誰が見ているのかなんとなく分かってしまうのが嫌だ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。