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7.


微妙な空気を壊したのは、トン、と小さな足音だった。決して大きくはない音だったが、明らかに怒気を含んでいてよく響く。

(宿のオーナーだッ!)

修学旅行で泊まったホテルで騒ぎすぎて、先生が来る足音が聞こえた感じだ。元々固まっていた空気がさらに静かになって、皆の視線がさまよう。

ギシ、と階段が軋む音。

そこからの行動は早かった。

水となって形が崩れ、泡となって弾けてマーメイドが消えていく。置いていかれたホーリーが慌ててカーテンの中に紛れる。オーツェルドは部屋を見回し、まさかのドアの後ろに隠れた。オーナーが覗かれなければ問題はない。

イチルによってユニコーンから引きずり降ろされたカルナダ様は、おろおろしながら扉から死角となるベッドの陰に這いつくばった。

一番目立つユニコーンは、簡単に絵の中にまた絵の中に入っていく。その直前、騒ぎに紛れて彼は俺に小さく囁いた。

『風の王、何かお困りのことがあれば私をお呼びください。…言ったでしょう、遠くないうちにまた会うことになる、と』

パチ、と彼はウィンクを一つ残した。

ユニコーンは絵の中で一度だけこちらに振り向いた後、夜の森に消えていった。

俺は小鳥となり、一応形とばかりに置いている鳥籠の中に雛と一緒に入り、自ら扉を閉めた。動物の鳥のふりをしていれば安全だ。

イチルは部屋の主だから隠れる必要はないわけで、隠れ場所を見付けられなかったドラゴンは足音が部屋の前に来た瞬間、そのままの体勢で固まった。置物に徹するつもりらしい。

(うわ、なにあれシュール…)

首がつりそうな体勢である。

────カルナダ様にひどくない?

そっと心の中でイチルに話しかけた。

すると、涼しい表情で本を読むふりをしているイチルが、溜め息混じりの返事をした。

────仕方ねぇだろ、緊急事態なんだから。宿を追い出されたら野宿決定だぞ。

────それは嫌だから誤魔化し通して。

────お前なぁ。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。