なでなで、なでなで。
カルナダ様の見事な手の動きに俺はすっかり虜になっていて、仰向きで腹を晒しながら撫でてもらっていた。
人間の姿なら引きこもるくらい恥ずかしいが、鳥になった今では気にしない。…いや、仰向きになっている鳥もなかなか見ないが。カルナダ様はにこにこと機嫌が良さそうだ。
「(あーお腹気持ちいいー)」
「ほおら、ほおーら、」
ドラゴンが目頭に前足を置いたのが見えた。
『で、君は一体何しにきたの?僕に会いに来たわけじゃないんだろう?』
「イチルに用があって来たんだ」
「(イチルならあっちにいるよ?)」
寝っ転がったまま翼で鍛錬場を指す。
カルナダ様が顔を上げたちょうどその時に影が差した。その影の主はまさに今話していた人物だったが、カルナダ様に向けられた青い目はいつもより随分と険しい気がした。
この位置から剣の鞘に掘られた紋章が見える。確かにセットレイア王家を表すドラゴンだったが、カルナダ様の刺繍に比べると輝きが鈍っていた。
「ご用ですか、兄様」
「あぁ、お前の申請書についてだよ」
カルナダ様も険しい顔つきになる。
離れていく指は惜しかったが、それ以上にイチルにそんなに険しい表情をしてほしくなくて、出来るようになったばかりで拙さが残る飛び方でイチルの肩に乗った。不機嫌な顔が驚きに染まる。
だが、カルナダ様との話題の方が重要なのだろう。俺が飛べるようになった事については、特に何も言われなかった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。