その時、膨らんだ胸がもぞっと動いて、ひょっこりと何かが顔を出した。
『ぷはぁ、』
俺が胸だと思っていた部分は実際には女性の胸ではなく、この生き物だったようだ。マントの中にしがみついていたそれは頭に外を出すと、黄金色の鱗で覆われた耳をぴょこぴょこと動かした。
久々の光を浴びて、眩しそうに細まる黄金色の大きな目。立派な二本の角。欠伸で大きく開かれた口から見える鋭い肉食の牙。
ぱちり、と彼は俺を見て瞬いた。
『おや、同胞(はらから)じゃないか。…長らく見ないうちにこんなに立派になって…、』
俺を同胞と呼ぶのは一人しかいなくて。
彼はマントから外に出ると、ユニコーンの背の上で伸びをするように悠然と翼を伸ばした。先に飾りのような大きめで僅かに透けた鱗のついた長い尾が、機嫌良さげに揺れていた。
「ドラゴン!」
『あぁ、お久しぶりだね』
「久しぶり!…ってことは、この人は、」
パサッ、とフードが脱がれる。
ドラゴンを連れていると言えば一人しか思い浮かばなくて、目に飛び込んできたのは俺が思っていた通りの人物だった。
『カルナダ様…!!』
光を受けて輝く金髪は決して派手という印象ではなく、上品な華々しさを醸し出す。
瞳は深海を切り取ったような濃くて澄みきったサファイアであり、だが、そこに滲むのはイチルよりいくらか落ち着いた知性だった。成熟した大人の色香を含んだ高貴な青色。
イチルの兄であり、軍事大国セットレイア王国の第一王子であるカルナダ・セットレイアは、
「やぁ、こんにちは」
最後に会った日と変わらない堂々とした風格で、俺の目の前にいた。
[ 389/656 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。