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2.


馬だ。白馬。

木々の間に小さく見える白いシルエット。

よく絵を観察していなかったイチルには分からないかもしれない。だが、風景画であるこれは森と夜空しか描かれていなくて、その白馬は先程までは存在しなかったと断言できた。

濃紺の中に浮かび上がる輝くような純白。こんな目立つ色を見逃したはずがない。

俺が目を逸らした一瞬に現れたんだ。

「イチル、気を引き締めて」

小鳥から人間の姿になった。

雛の安全を考慮して俺のポケットに入れる。

そして、雛を摘み上げてポケットに入れたそのたった数秒の動作の後、また絵に視線を戻せば、白馬の位置はまた変わっていた。

今度はさっきより大きく移動して、既に目の前まで来ている。森の奥にいたのに、もう森を抜け出しそうだ。この時、馬の背に人が跨っているのが確認できた。明らかな移動に、訝しげだったイチルでさえ警戒して剣に手を伸ばした。

そして、瞬きの一秒にも満たない時間の後、その白馬が絵のほとんどを占めていた。

もうそこまで来ているのだ。

月の光を浴びて輝く艶やかな毛並みすらよく見えた。走る勢いで後ろに靡く鬣(たてがみ)も、薄らと滲んだ汗でさえも。

「まさか絵から何かが出てくるのって普通?」

「お前はこの世界をなんだと思ってる?」

「魔法の世界でしょ?」

「だからってこれはねぇよ」

そして、ついに。

紙を破るような音はなかった。だが、その代わりに床を踏みしめる蹄の音が響く。

パカッパカッ、としばらく続くその音は勢いをいきなり殺したようで、絵から飛び出した白馬は部屋の壁に驚いて派手に嘶(いなな)いた。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。