「何が不満なんだよ」
『なにもかも不満だよ』
「はぁ?」
『ほら、考えてみなよ。将来誰かと契約する時に、『僕の名前はマヨネーズになり損ねた卵!』とか言えるわけないでしょ!?』
「………あのさ、」
鼻息荒くイチルを見上げた。
スープをテーブルに置いて、イチルは不機嫌さを引っ込めて、もはや可哀想なものを見るような目をしている。雛を守るべく翼を広げて威嚇すれば目頭を押さえて、長く溜め息を吐きやがった。
「俺マヨネーズになり損ねた卵なんて言ってねぇよ。何パワーアップさせてんだよ」
『…はっ!』
ヘタリ、と翼が垂れた。
『…嵌めたな?』
「嵌めてねぇよ。勝手に自爆したんだろうが。なんつーネーミングセンスだ、壊滅的だ」
『あれ、自覚あったんだ?』
「お前に言ってんだよ。自覚しろ」
あぁ、雛が可愛い。
かあさま、なんて甘えてくるふわふわのもこもこが可愛くて仕方ない。うりうりと頬ずりしてやると苛立った表情のイチルが指の腹で俺の頭をグリグリしてくるから、指先をつついてやった。
そうするとイチルが妙に燃え始めて片手で俺の頭をグリグリして、もう片手の指で俺の羽を撫でたり、背中を擽ったりしてくる。
それを払い落とし、蹴り落とし、つつき、パタパタと叩き、軽く噛む。俺も妙に燃えてきて気が付けば綺麗に整えていた羽がぐちゃぐちゃだ。
『やるね、イチル』
「やりきった顔すんな、バカ」
まぁ、ただ馬鹿騒ぎをしていたんだ。
何気ない平和な時間が愛おしくて、大切で、そして、それはあっという間に簡単に崩れる。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。