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8.


『かあさま!』

『いや、俺は君のお母さんじゃなくて…』

あの後、雛がゆっくりと殻から出てきて、俺達はとりあえず自然に乾くのを待った。

乾いた雛の羽毛は今ではふわふわと柔らかくて、淡い黄色をしている。動物の鳥ならもう少し時間がかかるだろうが、聖獣は早い。

そして、刷り込みが怖いと思い知った。

産まれてから初めて目にするものを母だと思い込む鳥類特有の性質は、申し分なく遠慮なく俺へと発揮されたのだ。

『かあさま!』

『だから違うよ?』

『かあさまじゃないの…?』

クリクリの真ん丸のお目に々うるうると涙を貯めて寂しそうに見上げられれば、俺にはそれ以外否定することができなかった。

俺を母だと思い込むのは仕方ないかもしれない。少なくとも、この場にいる唯一の鳥だ。

『…うん、お母さんでいいよ、もう』

『やったぁ!』

思わず目が遠くなる。

こうして俺は結婚さえしていないのに、…まぁ、彼氏はいるが、いきなり子供ができた。

俺が思うに、ゆで終わった卵の中に聖獣の卵が混じってしまった。もちろん、この子はゆでられていない。あの魚といい、この雛といい、宿の主人はよく間違えすぎじゃないだろうか。

「なんでゆで卵の中から出てくんだよ」

イチルが寂しくパンを齧っている。

食べようと思っていたゆで卵が動くのは本当に怖いと思う。信じなくてごめん。

『混じったんだと思うよ』

『かあさま、この人は?』

『俺の…、…君のお父さんだよ』

『わぁ、とおさま!』

パタリ、イチルが食べていたパンが落ちた。

この時のイチルの表情だけで一年は笑いのネタに困らない、と思ったのは内緒だ。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。