だが、次の瞬間、俺達が絶句した。
『ひっ!?』
コトリ、と卵が動いたのだ。
誰にも触れられず、皿の上で。
『え、えぇえええ、ええ!?』
「え、本当に動いたの?ゆで卵が!?」
「マジで!?そりゃねぇだろ!」
「嘘じゃねぇよ!さっきも動いた!」
もうパニックだった。
動くゆで卵なんて聞いたことがない。だが、今、まさに俺達の目の前で卵は動き、皿と硬い殻がぶつかり合う音が聞こえるんだ。
『え、なにこのホラー!?魔法の世界だからってこれはなくない?無理無理無理!』
「タク、ねぇからな?あってたまるかよ!」
「ねぇなにこれゾンビ!?」
「とりあえず全員落ち着け」
そして、ピシッと、
『ひっ!』
卵にヒビが入って、割れた。
そこから出てきたのは羽も生え揃えていないどころか、まだ濡れたままの小さな雛で、クリクリの丸い目がたまたま隣にいた俺を見る。
小さな、だが、そうは言っても俺と同じくらいの大きさの雛だ。たぶん、小鳥じゃなくて成長すればもっと大きな鳥になる。黄色いまだ頼りない羽、真ん丸のオレンジ色の瞳。その瞳は室内の光を受けて、キラキラと輝いていた。
そして、可愛らしい雛が鳴いた。
第一声は間違いなく俺を見て。
『かあさま!』
とりあえず、イチルの朝食がパンとスープだけになったと確定した瞬間だった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。