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5.


俺が慌てている間に、ピチッ、と魚は弱々しく跳ねる。今にも力尽きてしまいそうだ。

手段を選んでいる暇なんてなくて、宿の主人がこっちを見ていないのを確認すると風で桶を持ち上げ、川の上でひっくり返した。

バシャ、っと魚が川に落ちる。

水が跳ねたその音で宿の主人が気付いてこっちに走ってきたが、水の中にいる魚を捕まえられるはずもなくて悔しそうに、不思議そうにしただけだたった。彼は魚がどうやって逃げ出したのかも分かっていないのだろう。

(ごめん。でも、あれ聖獣なんだ)

主人の手の届かない場所で魚が水面近くまで浮き上がる。そして、僅かに顔を出して、今度は軽快に鰭を振ってみせた。

『あんがとよ、ちっせぇの』

『もう捕まっちゃダメだよ』

頷いてから水の中に潜り、消えていく魚を見届けて、今度こそ俺は部屋に戻った。

で、その結果がこれだ。

「え、なにこの食事」

嫌そうに顔を顰めるホーリエに俺は思わず視線を泳がせる。窓の外の雪が綺麗だ。

麦パンにスープ、ゆで卵とこの辺境にしては文句の言えない食事だが、本来あるはずの魚の煮込みが消えている。メインディッシュだ。

昨日の夜に明日の朝ご飯に魚が出ると聞いて以来、妙にウキウキしていたホーリエがしょんぼりとする。楽しみにしていた魚の煮込みは、さっき俺が川に逃がしたあいつだろう。

『た、卵、あるじゃん』

「お魚食べたかった…。卵も好きだけど、」

それでも、いただきます、ときちんと挨拶をしてから食べるホーリエはいい子だ。

しょんぼりとするホーリエはオーツェルドに頭を撫でられて慰められ、すぐに機嫌がなおって、美味しそうにゆで卵を食べていたが。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。