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逃げた朝食


宿の外の木の枝に留まって、欠伸をする。

真冬の早朝の骨を刺すような冷たい風に、ぶわり、と無意識に白い羽が膨らんだ。

数日前、バジリスクに伝言を任せてから夜更けに宿の部屋に戻れば、イチルはまだ眠っていなかった。俺を見た途端に不機嫌になって、あの後は言い訳や説明で大変だった。

結局、許してはくれたが、情事の後一人っきりにしたことにはかなり拗ねていた。

(可愛いって思ったのは内緒)

あれから数日。

俺達は移動をやめた。

俺はドラゴンを待っているわけだが、俺達がこれだけ長く旅してきた距離をドラゴンといってもすぐに来れるとは思っていなかった。それに伝言を任せた聖獣達が届ける時間も必要だ。

急に移動をやめた理由はオーツェルドには話したが、イチルとホーリエには話していない。不思議に思うのは当たり前だが、どのタイミングで二人に話すのか俺は決めかねていた。

特に、イチル本人に。

『はぁ…』

死ぬかもしれない、なんて。

(…言えるわけないじゃん)

だが、炎の王フェニックスが次の相手だと分かった今、イチルに何も知らせずに戦いを始めるわけにはいかない。彼には知る権利がある。

イチルも他の仲間達も安全圏に避難させて俺達王同士で一騎打ちできたなら話はまだ簡単だったかもしれないが、いつ闇に呑まれて狂うかもしれないイチルを放っておけるはずがない。

せめて俺が傍にいてやりたい。

(イチルにはもう時間がない)

既に二度も真っ赤な瞳になった。

しかも、体を重ねたあの夜は一度目よりずっと長く、ずっと鮮やかに禍々しく、元のサファイアに戻るのに長い時間を要した。

怖いんだ。真っ赤なまま戻らなくなって、堕ちて、イチルがイチルじゃなくなると思うと、

(…たまらなく怖い)

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。