『過去に加護を受けた人間が二人いた。二人とも賢王だったけれど、二人ともその加護が原因で悲惨な末路をたどったよ。僕らの力は、どうやら人の身には重すぎるらしい』
その話もっと詳しく聞きたい、と頭を傾げたが、話しすぎたという苦々しい表情をしたドラゴンは、わざとらしく咳払いをした。
『他に知りたいことは?』
話題を変えようとしているのは明らかだった。
だが、俺に人の話したくない話題を根掘り葉掘りにする趣味もないし、彼を困らせたくもないからさらに聞くのはやめた。
「(俺はイチルと話せないの?)」
『彼に魔力がない限り、ね。今、君と僕は同じ方法で喋っている。少しの魔力で分かるけど、彼には無理だと思うよ』
「(そっか…)」
イチルを見ているとなんとかして魔力を与えたくなるが、六体しかいない王様のうち三体は正体が分からず、あとの二体もどこにいるか分からない。ドラゴンも既に契約している。
ドラゴンが他の五体のことを知らない筈はないが、加護を勧めない彼が教えてくれるとは思えないし、何よりも加護をもらったところでドラゴンの言う悲惨な末路をイチルにはたどってほしくない。
はぁ…、心の中で重い溜め息を吐き出した。
ざわり、木の葉が揺れる。慰めるように、風が吹き抜けては頭を撫でていった。
「(ねぇ、飛び方教えてくれたりする?)」
その頼みに意外そうに目を丸められたが、すぐに優しく頬を緩めてくれた。
『喜んで、おちびさん』
「(いずれせいちょ、…いや、なんでもない)」
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。