だが、
『あらぁん?』
締め上げられる直前で、大蛇が止まった。
彼女も状況が飲み込めていないようで、ぽかんと口を開いて真っ赤な舌を垂らしている。
『なぁによ、抱きしめたいのに』
何かに引っかかったのだろうか、と彼女の後ろを見れば、その胴体は塒(とぐろ)を巻くようにして絡まっていた。太い木も巻き込んでいるのだから、絡まりようはかなり本格的だ。
(デジャヴ…!)
自分の後ろを見て、鼻先にいる俺を見て、また自分の後ろを見て、すぐ前にいる俺を見て、大蛇はまたうるうると目を潤ませた。
それは捨てられた犬さながらで、俺が虐めているような気分になって溜め息が出た。
『締め上げないなら助けてあげる』
『締め上げるだなんて人聞きが悪いわね。アタシのは愛情のこもったハグよ』
『………………』
『………分かったわ』
噛まないことを確認しながら恐る恐る鼻先に乗ってみる。襲われた時のためにいつでも風を動かせるように準備しておくが、もし彼女がその漆黒の通りに闇の聖獣なら風が効かないと思うと緊張が滲む。
彼女は俺をよく見ようと寄り目になった。俺が右に行けば大きな瞳は二つとも右に寄り、左に跳ねれば左に寄る。それが可愛くて、つい噴き出した。
(たぶん噛まないと思う)
むしろ好意を抱いてくれているから。
『悪戯っ子ね。遊ばないで助けてちょうだい』
『ごめん、可愛くて、つい。了解』
『ま、まぁ、可愛いだなんて…!!そんな言葉でレィディをからかわないで。…嬉しいけれど、』
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。