飛んで、跳ねて、避けて。
ちまっとしていると言われたことを撤回させてやるべく大きめの鳳凰の姿になることも可能だったが、的は小さい方が逃げやすいから渋々小鳥の姿のままで逃げ続けた。命は大事だ。
オーツェルドは大蛇が俺に夢中になっているうちに遠くの木の後ろに隠れたらしく、今は顔だけを出してこちらを窺っていた。
(お前の方がチキンでしょ!!)
と叫びたいのに余裕がない。
断言できる。相手が魔獣で危険に晒されるのが命だからこそオーツェルドは今後も同行することに決めた。もし、相手がこの大蛇で危険に晒されるのが節操だとしたら、オーツェルドは躊躇いもなくホーリエを連れて離脱していただろう。
ちら、ちら、と見物するだけで助ける気配のない隻眼を睨む間も、大蛇は相変わらずはあはあと荒い息で俺を追いかけまわしていた。
『やぁああん、逃げないで、痛くしないわ!』
『いや、逃げるに決まってるから!ていうか、あんた誰!?俺知らないんだけど!』
『酷いわぁ。でも、酷くされるのも、い、い』
今ほど自分が風の王で、最速であることに感謝したことはない。鳳凰の時ほどじゃないが、小鳥の時のスピードも充分通用しているらしい。
大蛇はクネクネとありえないスピードで這いずり回るが、俺はその動きが完全に見えていたし、避けるのだって余裕だった。そう、余裕だったんだ。その視線に硬直しなければ。
『っひ、』
動きを確認しようと後ろを向いた一瞬、バチ、と強く目が合った。興奮を露にした大きな目に、たまたま留まっていた細く頼りない木の枝の上で動けなくなってしまったんだ。
その硬直した一瞬で、大蛇はこちらまで詰め寄って、笑うように大きく口を開けて、
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。