『あぁ、なんたる光栄…!ついにこの日が…!お待ちしておりましたわぁ、風の王様』
「え?」
ふと大蛇の言葉に違和感を覚えた。
だが、俺がその違和感を突き詰めて問う前に大蛇の丸まった目には涙の膜が張られ、ついにうるうると今にも泣きそうになった。
『あの頃はあんなおちびたんだったのに、こんなにご立派になっちゃって、…あぁん!』
「ひぃっ!?」
大蛇が大蛇だとは思えない速度で突進してきた。
巨体なんて嘘だと思う速度で、砂を巻き上げて軽く木をへし折る勢いで迫ってくるそれに、腰が抜けそうになった。なんとか風でオーツェルドを隣に吹き飛ばして、俺も小鳥になって逃げる。
怖い。とてつもなく怖い。
感動の再会っぽく言っているが、脳裏をいくら探っても俺にはこんな大蛇の知り合いなんていないし、そもそもたっぷり涙を滲ませたって下心を剥き出しにした目に本能の警鐘が鳴る。
『ぇええぇええ!?誰ぇぇぇぇ!?』
『まぁ!アタシをお忘れに!?…仕方ありませありませんわ。アタシなんて所詮たくさんいたうちの一匹でしたものね…』
「え、モチヅキ、お前こんな趣味!?」
『違う!!誤解しないでよ!!』
『今でもちまっとしてるんですのね』
「それどこの話だ?」
『話がややこしくなるなら一旦黙って!』
断じてこんな知り合いはいない。
混乱する頭を整理する暇もなく、飛びかかってくる大蛇を避ける。避ける。避ける。
可愛らしい女の子は感動の再会の時にはよくハグをするが、彼、心の性別を優先して彼女のハグを受け取ると骨折どころじゃ済まされないだろう。下手したら締め上げられて天国行きだ。
俺が世界を助ける前に、誰か俺を助けてほしい。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。