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3.


世界には踏み入ってはならない領域がある。

例えば、目の前で荒い呼吸をする大蛇とか。

はあはあ、はあはあ、と熱に浮かれきった目で何かに耐えるように身を捩らせているが、初めから声は野太い野郎のものだった。女性の柔らかくて繊細なものじゃなくて、変声期もとっくにすぎた成人男性の痺れるような重低音だ。

『あぁん、そんなにアタシを見詰めて惚れちゃったのかしら?でも、ダメよ、お兄さん。レィディの寝起きを襲うなんて…』

ニヤリ、と大蛇が凶悪に笑う。

『寝惚けたアタシに犯されても知らないわよ?』

ビリビリと空気を震わす重低音。

柔らかい女性の口調だとしても、そこに滲んだ本気の声色にオーツェルドが涙目になった。

戦闘でならオーツェルドは頼りになる。どれだけの殺気を浴びようとも、顔色一つ変えずに淡々と大剣を振るうのだから。だが、さすがにこのタイプに免疫はなかったらしく、たじろいでいた。

『アタシねぇ、あなたみたいな男前が大好きなのよ。踏んでもらうのも、ゆっくりと優しく抱いてあげるのも楽しいのよぉ?どうかしら?』

ついにこの言葉には耐えきれなかったらしい。

弾かれたような速度で、オーツェルドが俺の後ろに避難してきた。それと一緒に、いまだにクネクネしている大蛇の視線もこちらに来た。

(うわ、やめてよ。俺も無理だから)

だなんて言葉はかろうじて呑み込んだ。

バチ、と濃い灰色の目と視線が絡まる。

『あら、そこのあなたも綺麗…、っ!?』

どうやって対処しようかと悩んでいだ、俺と目が合った大蛇の目が丸まる。もともと大きかったそれは限界まで見開かれて、黒に近いどこまでも深い灰色の虹彩が興奮したように細く絞られた。

『風の、王様…、あぁ、新たな風の始祖様、…まさか再びお姿を拝見できるなんて…』

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。