『貴様ァ、このバジリスク様の尻尾を踏むたァ、いい度胸してんじゃねぇか…!ああん?』
ギラリ、と濃い灰色の目が鋭く煌めいた。
その蛇は想像を絶するほど巨大だった。そこらの丸田よりも太く逞しい胴体は軽く見積もっても20メートルは越していて、月の光を反射していなければ艶やかな鱗は夜の闇に同化してしまいそうなほど、それはそれは見事な漆黒だった。
額から生えた四本の角。真ん中のニ本は比較的短くて、外側にあるニ本は長い。だが、そのどれもが長く、そして鋭利に冷たく光っていた。
不機嫌さを隠しもせずにこちらを睨み、見据える蛇の口から覗くニ本の長い牙はさらに長く鋭利で、白い。その隙間から時折チロリと出される真っ赤な舌は、蛇特有の二つに割れたものだった。
そんな凶悪さを体現したかのような蛇だったが、自分の尻尾を辿り、その先がまだ硬直したままのオーツェルドの足の下にあると分かると、チッ、と蛇なのに器用に舌打ちをした。
『汚ねぇ後ろ足いい加減どかせよ、人間ごとき…、あぁら、あなたったら男前ねぇ!』
呆然とした俺は悪くない。
『あなたほどの男前だったら、アタシ踏まれてもいいのよ?むしろ、もっと踏んでくれるかしら?あぁん、か、い、か、ん…!!』
「ひっ、」
サッ、と素早くオーツェルドが後ずさる。
(オーツェルドが悲鳴をあげるの、初めて見た)
…無理はないだろうけど。
オーツェルドが離した尻尾の先を名残惜しそうに見詰めながらも、凶悪な見た目の大蛇はうっとりと目を細めて体をクネらせる。はあっ、と熱い溜め息は恋する乙女、…というよりは踏み入ってはいけない世界を見せてきた。
白を通り越して青くなったオーツェルドが目線だけで助けを求めてくる。だが、先程の恨みを返すべく、さらっと無視してやった。
いや、むしろ、
(無理だよ。関わりたくないもん)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。