長い長い睨み合い。
先に折れたのは、
「…分かったよ」
俺だった。
「安心して。あんたもホーリエもマーメイドも、俺が絶対に守りきるから」
あそこまでの覚悟を見せ付けられて、あそこまで言いきられて、折れない訳がなかった。
不安はある。恐怖だって。だが、全てを承知した上で共にそれを分かち合い、立ち向かうことを選んでくれた仲間に果てしない心強さと、ただただ感謝が湧きあがるばかりだった。
この決断が正しいかは分からない。
もしかしたらあのヒッポグリフの時のように、たった一歩間違えただけで彼らを失ってしまうのかもしれない。だが、何にも染まらない黒曜石の瞳が何があっても生きて帰ると強く、強く断言していた。
「ハッ、いらねぇよ。俺の前にいんのがモチヅキなら、お前はお前らしく最愛のイチルだけ守ってればいいんだ。俺もホーリィも誰かに守られなきゃ戦えねぇってほど弱くはねぇんだよ」
それに、と彼は一度言葉を区切った。
「ホーリィを守んのは俺の役目だから」
目線だけでオーツェルドが笑う。
全てを呑み込むような暗い闇夜だったが、その闇ですら彼の照れ笑いを隠すのは不可能だった。
人懐っこい笑顔、ほんのりと薄く染まった耳、幸せそうにはにかんだ唇。それらがはっきり見えたのは、彼が輝いて見えるからかもしれなかった。
「俺達は大丈夫だから、お前はイチルを助けろ」
「言われなくても助けるし。…それにしてもリア充本当にうっとうしいな。羨ましいし、うざ、」
「り、りあ?…恋人って意味か?んだよ、王様のくせに意外と奥手かァ?アタックしろ。そんなんじゃキング・オブ・チキンになるぜ。鳥だけに」
「…魔獣の前に俺が切り刻んでやろうか?」
「はは、勘弁」
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。