「お前は気付いてねぇかもしれねぇけどさ、…お前がイチルに向ける目は俺達に向けるもんとちったァ違うんだ。…いや、だいぶ違ぇな」
「え?」
「なんつーか、…もっと優しくて温けぇの」
クッ、と喉で笑われた。
「お前がイチルにどんな感情を抱いてるのか、分からねぇほど俺も鈍くはねぇ。俺だって恋人持ってるし、ホーリィを愛してるし?」
言われてピンと来ない訳がなかった。俺だって自分がシルフ達を大切に思うこととイチルを大切に思うこととには、ほんの僅かでありながらも決定的な違いがあるって知っていたんだ。
だが、親愛と恋愛の境界線を他人にまで知られているとは思ってもみなかった。
少し恥ずかしくなって、思わず顔を顰めてしまえば、また喉の奥でクツリと笑われた。
「つまり、さ」
オーツェルドがすっと目を細めた。
だが、それは笑みではなかった。とても穏やかでとても落ち着いた、なのにとても真摯にこちらを見詰める漆黒の眼差しは、彼が抱く覚悟とあの日口にした誓いは決して揺るがないと言っていた。
「好きだからって、俺達を追い払って独り占めすんなよな。んなのずりぃと思うぜ?」
「そんなんじゃ…!」
一気に顔が熱くなる。
だが、言葉に詰まった俺をよそに、苦笑いを浮かべながらも目だけはまっすぐ俺を見据えていた仲間が言い放った次の一言に、彼が本当に言いたかった言葉を知った。ふざけたように見えて、実は覚悟の全てを浮き彫りにした言葉を。
「俺はホーリィ一筋で横取りするつもりなんてねぇから安心しろ。…だがなぁ、どんな未来だろうと俺達はお前らと歩いていくつもりだ」
見くびんなよ、と彼は挑発的に笑った。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。