色々考えた結果、俺達はまだ西に向かっていた。
本当は聖剣の場所を知ったからもう西に進む必要はないが、フェンリルとアルテミスの話を俺は誰にも話していないし、今後も話すつもりはないから、怪しまれないように進むことにした。
既にセットレイア王国の国境を越え、隣の国へと足を踏み入れた。検問では旅人だと言い、俺が小鳥になればなんら問題はなかった。
日が沈んで、月が現れて、また太陽が地平線を昇っては星が出る。それを何度も繰り返したが、イチルを助ける解決策はまだ見付からない。
時間は刻々と過ぎていく。今この瞬間にも魔獣になってしまった聖獣も、魔獣に襲われた人間もきっと増えているんだろう。俺の優柔不断さが彼らを害している。それは俺にも分かっていたのに。
だが、決意したことはあった。だから、俺は夜の闇に紛れて彼を呼び出したんだ。
「ったく、マジで勘弁してくれよ。こんな夜更けに林ん中で美人と逢瀬なんて…、ホーリィにバレたら殴られるだけじゃ済まされねぇじゃねぇかァ」
仲間だとしても深いの交流はない。だが、彼は唯一この話を打ち明けられる人だった。
「で、話ってなんだ、モチヅキ」
「…オーツェルド、」
細い細い三日月の夜。
ほんの僅かな月光の下、オーツェルドの前に立つ。それはとても濃い夜の闇で、俺が着ているコートの白すら呑み込んでしまいそうだったが、見上げる俺の表情の硬さと真面目さは彼にも伝わっていた。
吐息が白く濁るほどの真冬。ただ立っているだけで指先が悴(かじか)むこの季節の夜に、人目を避けるようにして林の中で会う。大事な話、…もしくは嫌な話があると彼はとうに知っていたんだろう。
「単刀直入に言うよ」
スッ、と片方だけの漆黒の目が細まる。
恐怖しているわけじゃない。それでも、彼が緊張していることは見て分かった。
「ホーリエを連れてパーティーを離脱してほしい」
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。