明けない夜はない。
どれだけ長く、凍えるような夜だとしても、きっと夜明けを迎えて再び光が溢れるだろう。
過去にそう言い放った人物は、本当に知っているんだろうか。夜が終わったのと同じように、昼もいずれまた終わりを迎えることに。
そして、光の温もりを知ってしまった人間は同じ長さと温度にも関わらず、一度は乗り越えた夜に耐えきれず、絶望し、息絶えてしまうことに。
(…イチルを、……殺す、)
そんなこと、俺にできるんだろうか。
色々考えた。俺の肩には無数の命がかかっている。王の力とは守るためのものあり、その責任の果たし方とは風の属性の聖獣達を何よりも優先し、護りきることなんだと思う。
風の聖獣だけじゃない。他の五つの聖獣、人間、動物、その全ての命とたった一つの命を天秤にかけて重さを比べて、どちらが重いかだなんて言うまでもなく分かりきっている。
イチルを殺すのが正解だ。
だが、
(…そんなの無理だ。無理、だよ)
俺にそんなことはできない。
殺したくない。殺せない。だが、フェンリルにあんな啖呵をきったわりには、今となっても彼が助かる可能性を見付けられずにいた。
殺さなければ世界が滅ぶ。
殺さなくても自我を失って狂う。
救いのない現実に、たった一筋の光もない現状に、何度泣いたことだろう。だが、どれだけ泣いたところで改善もなく時間が消えるだけだけれど。
何度も、何度も、この先の未来に伸びているだろう道を想像する。だが、枝分かれしたどの道を選んだとしても、俺の一番大事な人がこの世界に無常にも簡単に消される未来しか頭に浮かばなかった。
彼がいない未来しか。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。