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10.


王子様一人対騎士三人。

じきに始まろうとする前代未聞の戦いを、レイロさんは今にも溜め息を吐きそうな呆れた表情で眺めていた。最初こそ止めていたものの、イチルが頷いたから許可せざるを得なかったのだ。

この戦いに好奇心をくすぐられる人は俺だけではないらしく、全ての騎士が手を止めて集まってきている。何を思っているのか、レイロさんも特に注意はしなかった。

俺はと言うと、必死に木の枝に登って見やすい場所を確保した。観戦の準備は万全だ。

「用意、」

一拍、レイロさんの声が途切れる。

誰もが緊張していた、…イチル以外は。

「始め!」

その声がまだ終わらないうちだったと思う。

ドン、と重い音がして、まずは一人目が地面に転がされていた。本人も何が起きたか分かっていないようで、瞬きを繰り返す。剣は既に彼から遠く離れた地面に転がっていた。

二人目も呆気なく倒れる。意識はあるが、鳩尾(みぞおち)を押さえながら地面に横たわる彼の額には脂汗が滲んでいた。

三人目は一番呆気ない。拍子抜けだ。一瞬でイチルに背後を取られ、首に剣を突きつけられていた。

呆然とする観衆を気にもせず、イチルは鼻で笑った。三人を相手にしたのに息一つ乱さず、いや、剣を鞘から抜きすらしなかった。いとも容易く勝負を制したのだ。

「俺の勝ち。文句ある奴はいるか?」

そして、その場の空気をも制した。

だが、空気に呑まれなかった強者もいるらしい。パチパチ、とレイロさんの一人だけの暢気な拍手が静まり返った鍛錬場に響きわたった。

「やはりお強いですね。文句などあるはずもございません。…ただ、私も手合わせのお願いをしても?」

「お前とは久々だな。もちろん構わない」

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。