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9.


だが、そうは願っていても現実とは上手くいかないもので、イチルに理解出来た素振りはなかったが、指先に自ら擦り寄ればその目元がいくらか緩んだ。

大丈夫、大丈夫だよ、って安心させるように何度も何度も。実際、イチルの存在に安心させられていたのは俺の方だったんだけど。

そうしていると、複数の靴音が近付いてきた。

「あの、イチル様、お手合わせ願えませんか」

「見てるだけはつまらないですよね?」

ニヤニヤと人を見下した笑みを隠そうともしない騎士達にいくらの自信があるかは知らないが、慇懃無礼にも程がある態度に胃がムカムカする。

相手は温室育ちの王子様で、魔力がこれっぽっちもない。剣が出来そうな体格でもない。だから手合わせを言い訳にして笑い者にしてやろう、って魂胆が見え透いていた。

(その考えは間違っているよ)

俺はイチルが剣を抜いたところを見たことがない。

だが、剣に関しては強いくらいと予想出来た。それも恐らく俺が思っているよりずっと。

イチルの右手には硬い剣だこがあった。そもそも魔法が使えない王子様が城内といえども剣を一本だけ持って護衛もつけずに歩くのだって、魔法相手に剣術で太刀打ちできる自信があってこそだ。

というよりも、俺は舐めてかかった相手にですら複数じゃないと勝負に出れない騎士団を心配したくなってしまう。

「(やっちゃえ。イチル、やっちゃえ!)」

俺がそう言うまでもなく、イチルが顔を上げる。

「いいだろう。相手になってやる」

ゆるりと口角を吊り上げて、目を細める。笑った形になったにも関わらず、深い蒼の奥深くに音もなく燃え広がった闘志は相手に逃げることすら許さなかった。

まるで勝負の前から勝利を確信したかのような笑み。絶対的な自信が、そこにあった。

それは、まさしく王者の風格だった。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。