格好いいレイロさんと話せるのが嬉しくて思わず翼をパタパタさせたが、影が被さってきた次の瞬間には鷲掴みにされて宙に浮いていた。
俺は既にその感覚に慣れていて、犯人が誰かなんて見なくても分かる。もはや定位置となったポケットに放り込まれてから、じとりとイチルを睨んだ。
「(せっかくレイロさんと話せたのに…)」
イチルは相変わらず俺の言っていることが分からなくて、ピィピィと聞こえるらしい。
とても不機嫌そうに舌打ちをして、軽くレイロさんを睨みながらイチルは呟く。その呟きと同時にレイロさんに背を向けて歩き出していた。
「訓練を続けろ」
「はっ」
イチルの体で見えないが、レイロさんの掛け声と靴の音がする。多分、騎士達が礼をやめて訓練に戻ったんだろう。
俺はそれを間近で見たかったのに、イチルは振り返る素振りも見せずに訓練所の端へと向かう。植え込みの傍にあったベンチに腰を下ろせば、ポケットに手を突っ込まれた。
俺を掴んだ骨張った手は痛みこそ与えなかったが、いつもより少々乱暴だった。
そして、澄みきったサファイアが名状しがたい寂しさと劣等感に揺れているのを見付けて、俺はその理由を知った。
(なんだ、羨ましかったのか)
仲間外れにしたつもりはなかったんだけど。
そりゃあ自分以外が自分の分からない言葉で盛り上がっていたら楽しくはなれない。
しかも、ほんの少し魔力を持っていたら分かる言葉でも、生まれつき魔力がないイチルには努力のしようもない。まるで努力する権利すら与えられていないような気分になる。
その感覚には、俺にも覚えがあった。
血の繋がらない両親。どれだけ努力しても、はっきりと引かれたその線は超えられなかった。
知ってる。知ってるよ。俺は逃げてきた。だから、逃げずに向き合い続けて、現状を変えようとしているイチルはすごいと思うんだ。だって、毎日毎日勉強しているじゃないか。
人が皆出来ていることを出来ないなんて、欠点じゃない。自分にしか出来ないことを精一杯探せばいいじゃん。
だからね、イチル、
「(大丈夫だよ)」
この言葉だけでも伝わればいい。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。