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6.


物語の中でしか見たことのない架空の生き物が、今、俺の目の前にいる。

銀灰色の穏やかな眼差しも、風になびく純白のたてがみも、機嫌が良さそうに揺らされる尾も、蹄の音も、その息遣いも、物語なんかじゃなくて現実になっているんだ。

(本当にファンタジーの世界に来たんだ)

イチルのポケットから頭だけ出して呆然と見上げている俺を眺めた後、ペガサスはイチルに片方の前足を折り、頭を下げた。

『我らが主、』

それは紛れもなく声だった。

馬の嘶(いなな)きなどではなく、意味を持った人の言葉。頭に直接聞こえてくるのではなく、空気を震わせて鼓膜を揺らすとても穏やかな若い男の声だった。

「礼はいい。楽にしろ」

イチルはそう言うが、ペガサスは戻らない。

「ピッピィ(もう体を戻していいんだよ?)」

俺がそう言ってやっとペガサスは頭を上げた。

存在は知っていたが、俺は初めて見た聖獣に興奮を隠せなくて、ペガサスが誰かに膝を折る意味も、イチルと鳶色の目をした男が驚いていたことも、その理由も知らなかった。

「(ペガサスだぁ…、本物!ッ、)」

ペガサスをよく見ようとポケットのふちによじ登ったが、バランスを崩しまった。

だが、硬い土の地面に叩きつけられる前に風が包み込むように俺を浮かせて、そっと地面に降ろしてくれた。不思議な現象に頭を傾げると、ペガサスと目が合った。

「(君かぁ。ありがとね)」

『いえ、当たり前のことをしたまでです』

「(君は風の聖獣さん?)」

その質問にペガサスは目を丸めた。

『…さようでございます』

「(この男の人と契約したの?)」

『はい。…あなたは、あなた様は何もご存知でいらっしゃらないのですか?』

「(ごめんなさい。知らない。君が彼と契約したのはそんなに有名なこと?)」

『それを聞いたわけではないのですが、』

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。