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10.


「お前は、…俺でよかったのか?」

イチルが小さく呟いた。

俺の記憶にあるイチルはいつも堂々と前を向いていて、凛々しくて、何事にも動じなくて、…だが、この声ばかりは聞き取れるか聞き取れないかほどに小さくて、自信が少しも見当たらなかった。

「…俺なんかが契約主でよかったのか?」

ぎゅ、と拳に力が入るのが見えた。

「お前の力ならもっと強い人間と契約できたんじゃねぇのか。こんな俺じゃなくてッ…!」

噛み締めるような声色だった。

ずっと聞きたかったんだろう。ずっと心に留めていたんだろう。だが、ずっと聞けずにいて、今やっと吐き出したそれは泣きそうに切なかった。

イチルは剣が強い。レイロさんと比べても圧倒的に強い。だが、裏を返してみればそれは存在しない魔力を補うために身につけたものであり、いくら堂々としていたとしても劣等感はあるんだろう。

俺は、イチルに捨てられないと言いきれる。

そして、

「ばーか、」

イチルを捨てないとも誓えるんだ。

爪が白くなるほど強く握られた拳に自分の手を添えた。イチルを傷付けないように拳を解きながら、また握らないように指に指を絡めていく。

少し、ほんの少しだけ震えている指は冷たくて、体温を分け合うように絡めながら握れば、僅かに戸惑った後に俺よりも強い力を返された。不安そうにしているくせに離そうとしてくれない。

「今更なんだよ。言っておくけど、イチル以外との契約なんて考えられなかったし、これから誰か強い人が現れても契約解除なんかしないから!」

イチルが笑った気配がした。

「言ったはずだ。イチルと契約してよかった、って。覚えてない?」

「いや、覚えてる。忘れてたまるかよ」

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。