直感していることがある。
今から俺達が歩もうとしているのはとても険しい道で、挫折も絶望も襲ってくるだろう。
だが、イチルはそれを乗り越えられるほど強い。魔力はまだまだ弱いかもしれない。それでも、少なくとも俺はイチルが抜いた剣にたったの一度も戸惑いや怯えを見たことがなかった。
誰よりも強く、そして、誰よりも優しいこの人を信頼して、共に歩みたいと思う。
「もう戻るね。いなくなったって分かるとピィたん絶対心配しちゃう」
立ち上がろうとした瞬間、手首を掴まれた。
座ったままのイチルを見下ろせば、拗ねたような鮮やかなサファイアが見上げてくる。
「戻るってなんだよ」
「え、お前の居場所は俺の隣だ、とでも言いたいわけ?うわ、笑える」
「っ、」
あながち間違いではなかったらしい。イチルはあからさまに不機嫌さが増していたが、実はを言えば俺も満更じゃなかった。
誰よりも大切な人が俺の居場所は自分の隣だって言ったんだ。嬉しくないわけがない。照れ隠しでからかったが、ランプの光が薄暗くて本当によかった。もしあの世界のように強い照明だったら、と思うと少し焦ってしまった。
しっ、しっ、と犬でも追い払うようにイチルが手を振る。もっと素直になればいいのに。
「行ってくるね」
「…おう、」
ふ、とイチルが微笑んだ。
とても綺麗な微笑みだったんだ。僅かに下げられた目尻はらしくないほど優しくて、こんな薄暗いところでも鮮やかな金髪は光を集めたかのようにキラキラと柔らかく輝いていた。
なのに、その目はサファイアじゃなかった。光の加減が理由かもしれない。たったの一瞬だった。だが、一瞬でも確かに見えたんだ。
鮮やかすぎるルビーに。
いや、ルビーよりは濃い。鮮血を彷彿させるその紅色は鮮やかで綺麗だというよりも、…背筋が寒くなるほど忌々しく、禍々しかったんだ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。