あの時のことはよく覚えてる。
(…悔しかったんだ、)
力のない自分によくしてくれたイチル。そのイチルを奪い合うように現れた高位の聖獣達。俺だって傍にいたいのに力がなくて、悔しくて、
(それで暴走したんだっけ)
儀式をめちゃくちゃに破壊したことは悪いとは思ってるけど、後悔はしてない。結局俺はあの聖獣達よりも高位で強いわけなんだから、イチルの旅にも力を貸せる。それに、
(取られたくなかった)
あの時、初めてイチルが大切だと強く思った。
「俺、」
隣に座ったイチルが呟く。
吸い込まれるように青い切れ長の目はまっすぐ俺を見ていて、薄暗い闇に包まれているというのに鮮やかな色彩を失っていなかった。
その目に見詰められると気持ちは落ち着くのに、…心臓が落ち着かなくなる。
「儀式の時、高位の聖獣がぞろぞろ出てきて驚いたが…嬉しかったんだ」
「…あっそ」
「だが、妙にお前が気になった」
「え?」
気になった、という言葉に弾かれたようにイチルを見る。だが、伸びてきた手に優しく後頭部を押されてイチルの肩に頭を預けた。首筋が赤かったから顔を見られたくないんだと思う。
顔を上げてからかいの一つでも飛ばしてやりたかったのに、剣に慣れた大きな手は俺の目元を覆って視界を奪ってしまった。
鼻で笑えば、指が少し震えた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。