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9.


ピィたんは昔、大陸の果ての果てに住んでいた。そこは氷が地面を覆い、吹雪が空を舞い、白しか存在しない凍てつく世界だった。

群れの仲間もいたし、家族もいた。だが、白以外が見たくて、外の世界が見たくて、意を決してその真っ白い場所から旅立った。

移動して、移動して、白かった大地はいつの間にか土が存在するようになり、凍っていた川の水はいつの間にか流れるようになった。だが、長旅の疲れが溜まっていた上に狭い川での狩りは上手くいかなくて、疲労と空腹で倒れてしまった。

それがちょうど真冬の、故郷とは比べられなくても寒い夜で、故郷が懐かしくてつい川の水に浸かったままで意識を手放した。

起きた時には小川の水が凍っていて、そのまま下半身が抜け出せなくなってしまった。

その時に見付けてくれたのがルイだった。

ルイは近くの石を使って必死に、だが、傷付けないように丁寧に氷を割ってピィたんを家に連れ帰った。それがちょうど今から七年前、ルイがまだ八歳だった時の話だった。

それからルイと一緒に住むようになった。恩返しに食材を冷やして鮮度を保ったりなど手伝いもしていたが、気になるものがあった。

鳥、という存在だ。

自分と同じような姿形を持つその生き物は故郷には存在していなくて、似たような姿なのに自分とは全く異なった性質を持つ。

空を飛ぶのだ。ひ弱さなんてない力強い翼を羽ばたかせ、空を翔ける。そのスピード、自由さ、優雅さはどれもピィたんが持たないものだった。だが、ここではそれが当たり前。

むしろ飛べない鳥を見たことがなかった。

最初は憧れや羨望だった。だが、ルイの視線が向いた途端、嫉妬へと変わった。

大好きな人の視線の先にいるのはどれだけ努力しても手に入れられない能力を持ち、似たような姿を持つ生き物だった。

弱い自分が嫌で、暑いのが苦手だなんて情けないことを知られたくなかった。

だから、ずっと黙っていた。

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。