テーブルの端から勇気を持って飛び降りる。
人間からしたら腰程度の高さだが、今の俺からすれば建物の何階から飛び降りる気持ちだ。しかも、鳥のくせに飛べない。
パタパタと頑張っても綺麗に着地なんか出来なくて、ペチャと情けない音を立てて床に叩きつけられた。だが、この小さな体にかかる重力も少ないらしく、痛みはほとんどなかった。
振り返れば、可哀想なものを見る目をしたイチルが俺を見下ろしていた。
(うざっ!)
俺一人で行けるし。
そう開き直って、体勢を立て直す。
そして、喧嘩を売るようにピィ!と鳴いて、ドアの方に向かって跳ねる。これでドアが閉まっていたらどうしようもないが、幸いなことに小さな隙間だけ空いていた。
鳥が窓を無視して、床からドアに向かう。その図を想像したくもないが、剣の見たさに気にしないことにした。
「おい、待てチビ!」
(チビじゃないし!人間の姿だったらお前の身長なんて……、うん、越してないよ)
俺を追いかける足音がする。俺が必死に跳ねて稼いだ距離をたった一歩で詰めてくる長い足に、かなり本気で舌打ちしたくなる。
磨きすぎの大理石の床を半ば滑りながら跳ねていた時、体を優しく掴む手に一気に持ち上げられた。すぐ近くに呆れた顔をしたイチル。
ふん、と鼻で笑われた。
「ピ?(喧嘩売ってんの?買うよ?)」
三秒で負ける自信があるけれど。
だが、予想に反してイチルは俺をポケットに放り込んだかと思うと、そのまま自室を出た。カツカツ、と足音を響かせながら螺旋階段を降りていく。
城の窓から見える木々は多くが豊穣を連想させる黄金や明るい朱色に染まっていた。時折深い緑が混じったその風景が風に合わせてざわめく様子は、とても美しかった。
そのうち剣の音が鮮明になってきた。
そして、もう少し進んで屋外に出るとそこは騎士の訓練所らしく、剣を持った騎士達が素振りをしていたり手合わせをしていた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。