「どけよ」
「ピィ(やだ)」
「どけって言ってんだろ」
「ピッピピィ!(やだったらやだ!)」
「…こんのちび鳥が…!」
ヒクリ、とイチルの頬が引きつる。
笑っていれば爽やかに見えるだろうよく整った顔は、隠すことなく不機嫌さを顕にしながら全力で顰められていた。
この世界に来てしばらく経つが、イチルが笑っているところはまだ見たことがない。というより、本当に笑えるのだろうか、と思うほどに無愛想だった。
しばらく睨み合っていると、いや、傍から見れば俺はつぶらな瞳をしているが、イチルは深い深い溜め息を吐いた。
(そりゃ小鳥と睨み合うのはね…)
現在、俺はイチルの本の上に陣取っている。
分かりやすく言えば、読書を邪魔している。
いや、初日に投げ出されたことを根に持っているわけじゃない。確かにムカつくが、食事も寝床も用意してくれたんだ。
ただ少しからかってやりたいだけ。それに毎回いい反応を返してくれるものだから、つい毎日繰り返してしまう。
「ぴ、(読ませてやらないぞ)」
だが、人間なら鼻を鳴らす感じでふんぞり返った俺の体は、いとも容易くイチルに摘みあげられて、どかされた。
「隣で遊んでろ」
(仕方ないなぁ…)
初日に俺が飛べないと分かって以来、イチルが俺を投げることはなくなった。
摘みあげる指だって、気のせいなんかじゃ片付けられないほど優しく、気遣うものになっている。態度は変わらないが。
だから、
(今は邪魔しないであげるよ)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。