翼の使い方は知っていた。
力強く空を滑る。景色がありえないほど速く流れていく。だが、不思議と俺には全てのものがはっきりと見えていた。動体視力が上がったんだ。
本当に不思議な感覚だったんだ。
ホーリエ達と戦った時ともまた違う感覚。動きやすいだけではなく、自分と風の境界線が消えたかのようだ。付き従ってくれる風の精霊達との境界線は、はっきりしているのに。
空気がたった少し震えただけで、どこに何がいるのかはっきり分かる。人か、聖獣か、精霊か、魔獣か。たとえ目で見えない場所だとしても空気が存在する限りよく分かる。
しかも、かなり広範囲で町全体だ。
(お願い。手伝って)
そう言うと、精霊達は別々の方向に行った。
漠然と理解していた。
(風が、空気が存在する場所は、…俺の領域だ)
この時には町人達が警鐘を鳴らしていた。
カンカンと鉄を打ち鳴らす高い音が夜の静寂を切り裂く。真っ暗だった家は次々と灯りが灯され、斧や鎌を持った町人達が出てくる。だが、数が多いと分かると、一目散に神殿へと走っていった。
(…頼むよ、シルフ)
倒れた老婆に飛びかかろうとする魔獣を切り裂く。
攻撃はとても簡単だった。呪文なんて必要ないし、手足を動かすように、息をするように自然に風を動かすことが出来る。風の精霊達に頼るのではなく、俺の意志で。
右から突進してきた一体を一撃で切り裂き、物陰から飛び出してきた一体を倒すと同時に上空にいた一体を貫く。ドサッ、と重たい音を立てて倒れた三体を見る時間すら惜しく、助けが必要そうな人達のところへと飛ぶ。
(イチル達は?)
気になる。今すぐ助けに行きたい。
だが、あそこにはホーリエもマーメイドもいるし、イチルとオーツェルドだって群を抜いて強い。俺が行かなくてもしばらくは大丈夫だろう。
注意してリィシャの家の気配を探ってみると皆とっくに起きていて、戦っていた。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。