攻撃をしながら、改めて魔獣を見てみた。
今俺の前にいるのは虎に似た魔獣だ。夜のような漆黒の毛皮に、鮮血よりも鮮やかな紅色の目。さっきから見ていると、魔獣は全て皮膚や毛皮が黒くて、目が血色だ。
牙を剥きながら、躊躇う様子も見せずに人を追いかけては襲う。聖獣に似た形をしているのに、聖獣の穏やかさは欠片も持っていない。
だが、倒した一体の魔獣の体の黒色が自ら意思を持って歪んだ瞬間、歪んだ黒の狭間から本来の薄茶色の毛皮が見えた瞬間、俺は魔獣が一体何であるのかを理解してしまった。
マーメイドが言っていた。
(魔獣は、…かつて聖獣だった)
最初から黒色の毛皮を持っていたなら、黒が歪んで薄茶色が見えるなんてありえない。
黒、…闇属性。つまり、闇の精霊だ。
俺は風属性だから風の精霊しか存在を感じることは出来ないが、不自然に闇がうごめいたなら感じなくてもそこには闇の精霊達がいる。
魔獣とは何か。その答えは、
(闇属性以外の聖獣がなんらかの拍子で闇の精霊達と融合し、自我を失って暴走したもの…)
それを理解した途端、体が凍りついた。
魔獣は聖獣だった。ならば、俺は聖獣達を殺しているんじゃないんだろうか。かつてとは言っても、あれだけ穏やかで優しかった聖獣達を、俺は、…殺してしまっているんだ。
(どうにかして元に戻さないと!)
だが、聖獣としての本能が言っていた。
一度落ちれば決して戻らない、と。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。