シルフが愛しい。
だが、それは恋人へ向ける恋愛ではなくて、家族へ向ける親愛だ。話に聞く限り彼女は俺より随分と年上らしいが、ふと妹のように思えた。
全ての聖獣の中で彼女が俺に一番近いからかもしれないし、同じ属性だから何らかの繋がりを感じるんだろう。その感覚はとても自然に、違和感もなく胸に染み込んできて、馴染む。
彼女が大切だ。
だからこそ、人間を嫌わないでほしい。
しばらくシルフを抱きしめて、落ち着くまで待って、涙が引いたのを見計らってから口を開けた。腕の中にいるシルフの様子を窺いながら、俺は慎重に言葉を選んだ。
「ねぇ、シルフ。君に会いたかったのはもちろんだけど、言いたいことがあって来たんだ」
『仰ってください』
「この町の」
ことだけど、と言葉が終わらないうちだった。
「っ!?」
ドク、と心臓が嫌な音を鳴らす。
ひどく強く嫌な感じがした。嫌な予感などというものではなく、たった今恐ろしいことが起こっていると本能的に感じ取った。
たとえるなら、黒板に爪を立てて思いっきり引っかいた時のように全身の鳥肌が立つ。強い不快感と嫌悪感、…そして、緊張が全身を駆け回っていく。
何か来る。
とても恐ろしい何かが。
初めは不思議そうにしていたが、数秒後には彼女も気がついたようだ。まだ少し涙を残した目が驚きを浮かべたかと思うと、鋭くなる。
そして、緊張した声色で、
『…魔獣です』
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。